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![]() 地球環境との調和を実現するため,電気自動車,太陽光発電,風力発電,燃料電池発電,さらには宇宙発電システムなどの「環境調和形電気システム」は今後一層広く利用されるでしょう。このシステムのエネルギー変換にはパワーエレクトロニクス技術が使用されています。近い将来大量の大容量・高電圧のインバータやパワーモジュールが使用されると予想されており,現在,IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などのパワー半導体素子の高速開閉・大容量化・高電圧化の開発競争が進んでいますが,現在立上がり時間数10ナノ秒以下,直流電圧3kV以上の素子が既に実用化されています。これらの高性能パワー半導体素子の実現により,低コストの環境調和形電気システムの実現が一層確実になると見られています。 一方パワー半導体素子が直流高電圧を急峻に開閉すると周辺の素子や機器に「インバータサージ」と称される高電圧パルスが極めて多量に発生し,予想外の絶縁事故を引き起こすことが近年知られてきました。このサージは技術的にはフィルタ回路やスナバ回路などを追加設置すれば防止できますが,大幅なコスト増となるため通常適用されていません。自動車・電機メーカにおけるインバータの大量利用は数年先に迫っており,このインバータサージが環境調和形電気システムの信頼性を大きく左右する要因となる可能性があります。 欧州ではインバータ駆動モータの事故を重視し,業界(Gambica/REMA)が現象と評価・抑制に関する公式ガイドを発行しています。また国際電気標準会議(IEC)の作業部会においても評価・規制に関する規格立案作業が急速に進んでいますが,繰返し急峻サージによって発生する部分放電の計測技術は未確立であり,放電開始条件や劣化現象も十分理解されていません。企業内では個別に開発を進めていると見られていますが,開発競争における情報管理などのため研究成果がほとんど公表されていないのが現状です。インバータサージを模擬する試験電源や高速部分放電検出装置は高額で,一部の大学で着手しているのみです。九州工業大学ではこのテーマについて十分なスタッフと一定の準備を進めており,科学研究費の交付が実施されれば短時間に課題解決ができ,インバータの大量利用における信頼性が確保できると思われます。わが国全体の技術競争力確保の観点からも,早急に学術的基礎研究を加速すべきと考えられます。 現在寄附講座ではインバータサージに関する以下の課題を取り組んでいます。 1. インバータサージの発生・伝播・過渡応答について,実験と数値解析の両面から解明する。 2. インバータサージによる部分放電の発生メカニズムと放電開始電圧の評価技術を確立する。 3. インバータサージの高頻度部分放電発生条件における絶縁材料劣化を評価・解明する。 4. 部分放電計測技術を確立して国際電気標準IEC規格に提言し,国際競争力強化に貢献する。 本研究の学術的な特徴のひとつは,立上がり時間数10ナノ秒以下の急峻なサージ電圧が数kHzという高頻度で両極性で繰返される場合の部分放電現象を解明する点です。単一サージでは放電形成後の現象はあまり考慮されていませんが,短時間で後続パルスが印加される条件下で,材料の空間電荷形成や誘電加熱現象などの観点も含めて時系列的な放電条件を解明することが学術的に極めて斬新な課題です。 またインバータサージ侵入を前提としたコイル内部の電圧分布の高周波応答については従来もモデル解析が実施されていますが,ネットワークアナライザを用いたGHz帯域までの高周波応答特性も最近研究が活発化している分野です。 本研究は光学的・電磁的検出が中心ですが,実際の機器の部分放電計測では試験サージ電圧の変位電流を抑制して微小部分放電を検出するためのフィルタ技術なども必要となります。私たちは実用に結びつく放電電荷計測やフィルタ技術の研究を進めていきます。 以上のように近年注目されている高周波領域のサージ伝播特性,部分放電開始条件の解明,材料の複合劣化現象解明,新規計測技術確立などの多角的・総合的アプローチは国内外にほとんど例がなく,本研究(計画)は学術的に極めて独創性が高く,先駆的と言えます。 参考文献 1)電気学会 技術報告739号 2)Gambica/REMA Technical Report “Variable speed drives and motors Motor insulation voltage stresses under PWM inverter operation” |
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